――Growing Fes.が終了し、色ノ葉音楽学院が1年に1度開催する文化祭、
通称「色学祭(しきがくさい)」の季節がやってきた。
昨年のカラーソニックの功績もあり今年は多くの来場客が見込める。
その中でも一際注目されるのはアトリウムに設置されるメインステージ。
毎年、理事長が選出した生徒たちがオリジナルの歌や曲を披露する場だ。
今年のメインステージはGrowing Fes.を大成功に導いた10名のメンバーが、
5曲の楽曲制作とショーの構成をすべて任されることとなった。
――早速メンバーは会議室に集合しミーティングを開始したわけだが、
話し合いは1時間が経ってもまとまらなかった。
なぜなら学祭はカラーソニックと違いバディ制度などのルールが一切ない。
つまり5人の作曲家たちが全員で力を合わせて、5曲を作曲しなければならないのだ。
そしてカラーソニックでは田所が毎年考える「テーマ」というものも、
今回は自分たちで決めなければいけない。
メンバーにとって、ゼロからすべてプロデュースするという体験は初めてのことだった。
「とりあえず、方向性決めねえと進まねえよなぁ」
未來が声をあげると、他のメンバーもそれに賛同するように頷く。
「そうだな。制作をするにあたり、ひとつの指針は欲しい。しかし、これぞというものが浮かばないな……」
日頃は聡明で意見をはっきり述べる神楽も、今回は珍しく考え込んでいるようだった。
「テーマかぁ。無理やり見つけるより、俺たちらしいものにした方がいいんじゃない?」
「僕も春飛さんの言うことに賛成です! Growing Fes.が終了した今しかできない、そんな曲がある気がして……」
「わかります! なんつうか、この一瞬だけの光、みてえな」
春飛に続く宙と旺士朗発言に、ボーカルチームも深く頷く。
「いいんじゃねえの、”一瞬”って単語。なんか気に入ったわ」
「うん、うん! 俺も、良いなって思った……!」
「今この瞬間の俺たちにしか作れない曲を作って歌うってことか……うん、すごくしっくりくる。俺も賛成だよ」
「海吏きゅんはいつでも光輝いてっけどなー! ま、いいんじゃね? な、もえたん!」
「ありだと思います。ありきたりなテーマ決められるより、やりやすいし」
嵐を筆頭にボーカルチームの意見も固まっていく。
すると、黙り込んでいた神楽が不意に口をひらいた。
「瞬間……。ならば、1日の時間の流れを楽曲で表現するのはどうだ?」
皆の視線が一気に神楽へと集まる。
「高槻くん、もうちょっと詳しくおねがーい」
「朝から晩までの時間帯を5つに区切り、その瞬間を表現した楽曲を制作するということだ。例えば、”はじまりの朝”、”昼の喧騒”、”黄昏の夕方”、”終わらない真夜中”、”明け方の静けさ”……」
「うおおお! すっげー良いじゃん! なんだよ高槻! めっちゃかっこいいこと考えるじゃねえか!!」
「顔に似合わずロマンチストだねぇ」
「良いと思います! すっげー楽しそうっす!!」
「はい! 高槻さんすごいです!」
作曲家チームが神楽をこれでもかと褒め称えると、当の本人は耳まで赤くなり、そっぽを向いた。
「お、おまえらがヒントを口にしたから思いついただけだ!」
ボーカルチームの5名もそんな神楽の態度に各々が反応を見せる。
「っとにあいつ素直じゃねえよな」
「でも、そこが高槻の良いところだよ」
「うん。高槻くん、ほんとはいいひとだもんね」
「え〜? いおりんとせぶみん優しすぎぃ! ま、クソツマにしちゃ良いアイディアだと思うけどにゃーっ」
「はい。カタブツ仮面にしてはまともなこと言ってたかと」
「おいそこ!! 好き勝手言うな!!」
「まあまあ。方向性は決まったし、ここからどう曲を作っていくか詰めてこうよ。んじゃ、ここは言い出しっぺの高槻くんに仕切ってもらって……」
春飛の掛け声と共に、他の者たちも神楽のもとに集まってくる。
こうして、10名の楽曲制作がスタートした――。
はじまりの朝
昼の喧騒
黄昏の夕方
終わらない真夜中
明け方の静けさ
それぞれの瞬間を表現した5曲は、学園祭でどんなステージを魅せるのか――。
彼らのここでしか描けない色が、生まれていく。
この瞬間に刻む、一曲を。
―Moments Song Series―