AGF2023記念・書き下ろしSS「凡庸な昼下がり -AGF2023 ver.-」

AGF2023出展記念にビーズログ・アニメイトタイムズにて公開した書き下ろしSSを公式HPにて掲載!

Reboost      https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1984/
BUMPEACE     https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1985/
ULTIMATE     https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1986/
STRANGE LAD  https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1987/

★AGF2023イラストを使用したグッズはこちら★
https://sprout-pj.jp/tcs/goods/goods-1889/
====================================
「凡庸な昼下がり -AGF2023 ver.-」

カラーレーション本部によって実施が決定した宣伝施策のイベント。
嵐と宙は、当日着用する衣装の合わせにやってきていた。
衣装部屋のラックにかかった服を見て、宙は目を輝かせている。
「いろんな服があってすごいですね! 嵐くん、どれ着ます?」
「いや、これ選べるシステムじゃねえから」
「え? そうでしたっけ?」
「本部から連絡来ただろ。衣装はもう決まってんだよ」
 嵐は端末を取り出し液晶画面を見せる。事前にカラーレーション本部にて決定されたふたりの衣装が映っていた。
「あ。そっか、そうでしたね!」
「ったく……さっさと着るぞ」
 嵐はラックにかかっている自分の衣装を手に取った。一方の宙も同じように自分の衣装を手にするが、嵐のものと交互に見比べると、口を尖らせた。
「なんか嵐くんの衣装の方がかっこいい気がします」
「んなことねえよ」
「僕もそっちがいいなぁ。交換しません?」
「バカなこと言ってねえで早く着ろ」
「むー!!」
 近頃になって頻度が増えてきた気がする宙のわがままを無視し、嵐は服を脱ぎ始める。その上体が顕になった途端、宙は目を見開いた。以前に見たときよりも、胸板が分厚くなっている。
「あれ?」
「何」
「嵐くん、またちょっと鍛えました?」
「そうか?」
「はい。なんかムキムキになった気が」
「まあトレーニングはしてるからな。旺士朗に良いメニュー教えてもらったから」
「榊くんに!? きつそうですね……」
「しんどいけど結果良い感じにはなってきてる。本番もちけえし鍛えねえと」
「すごいなぁ。ボーカルの鏡ですね!」
「おまえも少しは鍛えれば。そんなヒョロヒョロしてっと倒れるぞ」
「えっ、僕ってヒョロヒョロしてます?」
「どう見てもそうだろ」
 その言葉が信じられなくて、宙は慌てて着ていた服を脱いだ。
 鏡に映った自分の身体をまじまじと見て、首を傾げる。
「んー。たしかにちょっと肉が少なめ……?」
「少なめっつーか全然ねえだろ。あんなに食うのにな。接種したモンどこに行ってんだ?」
「僕も不思議に思ってます。昔から食べても太らないんですよねぇ」
「ふーん」
「嵐くんは細いのにちゃんと筋肉ついてて羨ましいなぁ」
「おまえもやればつくよ」
「そういうもんなんですかねぇ。なら僕も始めようかな」
 そんな他愛もない会話をしているうちに、嵐が衣装を着用し終えた。宙はそれを拍手をしながら、上から下までまじまじと観察をする。
「わー! めちゃくちゃ似合ってる! さすが嵐くんですね! かっこいい!」
「俺っつーか、この衣装が良いんだよ」
「いやいや! こういうのは着こなす人が重要ですよ。嵐くん普段からオシャレですし、やっぱりサマになりますね〜!」
「……フン。勝手に言ってろ」
「あれ。もしかして照れてます?」
「照れてねえわ」
「でもちょっと耳赤いですよ!」
「いちいち言うな」
「だって本当のことですもーん」
「放っとけ! つーかおまえもさっさと着替えろって」
「そうでした。すみません!」
 宙は慌てて用意された衣装を着用していく。しかし最後に帽子を手に取ると、困ったように眉毛を八の字にさせた。
「んー。この帽子……こっちが前かな? どっちなんだろ? こっちかなぁ」
 試しに何度かかぶっていると、嵐が大きくため息をついた。
「あーもう。ちげぇ!」
「え?」
「これは、こっちを前にしてかぶるんだよ。真ん中にマークついてんだろ」
 嵐、宙の帽子を奪い取ると、頭にかぶせなおした。
「あ。なるほどぉ」
「相変わらずアホだな」
「だってこういうの普段かぶらないし……」
「ったく、ちょっとこっち向け。パンツの履き方もちげぇ。直してやる」
 嵐は宙の足元にしゃがみこむと、専属スタイリストのように衣装の着せ方を正していく。宙は、おしゃれに衣装を着こなした鏡に映る自分を見て満足そうに微笑む。
「わー、僕じゃないみたい! 嵐くんのおかげです! 芸能人みたい! すごーい!」
 くるくると回って喜ぶ宙に、嵐は呆れ笑いをこぼした。
「単純だな」
「嵐くん、僕イケてますか!? ねえねえ、どうですか!」
「へいへい良い感じだよ」
「ちょっと、適当はやめてください! もっとテンションあげて褒めてほしいです!」
「んな面倒なことおまえ相手にするか」
「ひどーい。まったく。だからモテないんですよ」
「なっ……! モテるかどうかは関係ねえだろ!」
「いいえ。今後嵐くんに恋人ができたとして、今みたいな適当な褒め方したら絶対に喧嘩になります」
「んなもんわかんねえだろうが!」
「わかります! 世間一般で言う悪い彼氏の見本です! そんなんじゃ一生童貞ですからね」
「あぁ?」
 嵐は、思わず立ち上がる。言われたくないワードランキング第一位を見事にぶつけられ、我慢しきれなくなったのだ。
「てめえ、大人しくい聞いてりゃ人のことペラペラと……!」
「わ、だめだめ、暴力反対!」
「誰のおかげで衣装着れたと思ってんだ? あ!?」
「それとこれとは話が別じゃないですかぁ!」
「なにが別か説明してみろ!」
「ちょ、こっち来ないでぇ!」
「待てコラ!!」
 室内で追いかけっこを始めた二人は、走りながらも喧嘩を続ける。宙も宙で、このまま嵐に負けるのは嫌だった。
「嵐くんはオシャレで見た目もかっこいいけどモテない男子! 僕はオシャレじゃないけど多分嵐くんよりはモテる男子です!!」
「俺が下とかありえねぇ!」
「事実です!!」
「勝手に決めつけんなっつーの!」
 追いかけっこの末、とうとう嵐は宙の首根っこを掴んだ。
「ぎゃあああ!」
「はっ、ちょこまか逃げやがって」
「やだやだ殴らないでぇ!」
 狼に捕まった子兎のように、宙がふるふると首を横に振る。嵐は満足そうに微笑んだ。
「うるせぇ。歯ァ食いしばってろ」
「いやあああ! やめてぇ!!」
 嵐の腕の中で宙が暴れ続ける。
 ――その時だった。布がビリッと派手に破れる音が室内に響いたのだ。
「「え」」
 二人は顔を見合わせ、音のした下層部へ視線を落とす。宙の服パンツの生地が破れていた。喧嘩していた流れなど最早どうだっていい。嵐と宙の顔面は一瞬で真っ青になった。
「ど、どうすんだよこれ!」
「僕のせいじゃないです! 嵐くんが引っ張るから!」
「おまえが暴れたからだろ!」
「嵐くんが追いかけるからです!」
 互いに罪をなすりつけていると、衣装部屋の扉が開いた。
 入ってきたのは田所だった。
「おい。何騒いでる」
 低く通る声が、二人の喧嘩をぴたりと止めた。
 嵐と宙は、ギギ……と音がしそうなほどゆっくり、扉の方を振り返った。
「せ、先生」
「よう。衣装はどうだ」
「……いい感じっす」
 嵐はそう答えながら、必死で自分の身体の後ろに宙を隠した。
「? なにしてる?」
「な、なんでもねえ」
「ならどうして霧島を隠す」
「か、隠れんぼしようかなって話してたんです。えへへ! 先生も混じりますか!?」
「…………」
 宙がおそらく小学生より下手くそな嘘をかました。田所の視線は鋭く光り、破れた宙のパンツへと集中していた。嵐はそれを見て終わった、と心の中でつぶやいた。
「小宮山、霧島。ここに正座。異論は認めねえ」
 断る術など持っておらず、嵐と宙はそろりと田所の足元に揃って正座をした。
「さて、原因はどっちだ?」
 嵐と宙は同じタイミングで互いを指差した。
 田所が珍しく、笑みを浮かべた。
「歯ァ、食いしばってろ」
 そのセリフを聞いた他途端、二人の脳内に何かがリフレインする。
「このバカ野郎共が!!」
 とんでもない激痛が襲ったのは言うまでもなかった。
 ――結果、嵐と宙がお揃いのたんこぶを作って衣装担当者へ謝りに行ったのは、
カラーレーション本部でしばらく笑い話になったという。

 END