AGF2023・書き下ろしSS「ふたりの日常 -AGF2023 ver.-」

AGF2023出展記念にビーズログ・アニメイトタイムズにて公開した書き下ろしSSを公式HPにて掲載!

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「ふたりの日常 -AGF2023 ver.-」

カラーレーション本部によって実施が決定した宣伝施策のイベント。
伊織と春飛は、当日着用する衣装の合わせにやってきていた。
 本部の衣装部屋に用意された服を手に取り、それを鏡の前で合わせる春飛は、隣の伊織へ視線を向けた。
「ねぇ伊織、どう思う?」
「お、いいじゃん。すげー似合ってる」
「白ってあんま着ないんだけど。変じゃない?」
「全然。春飛はスタイルも顔も良いしなんでも似合うよ」
「えー! 嬉しいこと言ってくれるー!」
「俺の方がちょっと心配……」
 隣では同じく、伊織が自分の身体に衣装を合わせている。
 ブラックのアウターの中央にハートマークがついたデザインだが、伊織としてはそのマークが気になっているらしい。
「え。いいじゃん。普段と変わった感じで最高だよ?」
「うーん……」
「どうしたの?」
「こういうかわいらしいのは瀬文や霧島が着るべきなんじゃ……」
 伊織のその発言に、一瞬して春飛の表情が曇る。
「わかってない」
「え?」
「伊織、自分のこと全然わかってないよ」
「と言うと?」
「あのね、おまえの顔って絶妙なラインなんだよ」
「うん……?」
「いろんな服を着こなせる顔ってこと。例えばさ、俺はふわっとしたパステル系とかフェアリーな雰囲気より、スタイリッシュ路線の服の方が合うと思うんだよね。高槻くんとかも同じだと思う」
「たしかに、その2人はそういうイメージあるな」
「で、瀬文くんや霧島くん。あと財前くんなんかは、ポップやかわいらしい雰囲気が似合う」
「うんうん」
「倉橋くん、小宮山くん、榊くんはいわゆる派手系が似合うよね。で、伊織。おまえは今言ったどのタイプの系統もいける! あ、ついでに宮苑くんも同じタイプだと思う」
「ほ、ほう……?」
「伊織の衣装はすべての系統を網羅する選ばれし人間しか着こなせない。必然なんだよ。もともとの個性、持っている素質を考慮して丁寧に作られてると思う。思うっていうか絶対そうなの。ね、だから黙って着よ?」
 鼻息の荒い春飛を目の前にし、伊織の脳裏に一抹の不安がよぎる。
 まさかそんなはずは。しかしこの男ならやりかねない。
 伊織はそろりと、幼馴染に疑いの眼差しを向ける。
「ねえ聞いてる? これだけ熱弁してるんだからわかってよ」
「なあ春飛。おまえさっきからどうしてそこまで熱弁するんだ?」
「だって伊織にこれ着てほしいもん。細部まですっごくこだわってるんだよ? インナーの色とか、靴とかも慎重に選んで――」
「へえ。衣装について随分詳しいんだな?」
「そりゃもう! だって本部にリクエストしたの俺だし!」
「! やっぱり……!」
「あ」
「どういうことだ。説明しろ」
 伊織の反応を見て過失に気づいた春飛だが、まずいと思ったのはほんの一瞬だけだった。
「まあちょっと、いや、だいぶ裏ルートを使ってリクエストは送ったけど。ついでに宣伝部の職員のこと直接脅したりもしちゃったけど。ま、結果がよければすべてオッケーだよ!」
「脅したってどういうことだ。なにした!」
「えー。知ったら伊織、泡ふいて倒れちゃうかもよー?」
「……っ! おまえな、そういうことするなって言ってるだろ!」
「だって伊織のレアショット撮りたかったんだもん。どうしても新しいアルバム作りたかったんだもん」
「……っ!」
 何を言おうともびくともしない、強靭なメンタルを培った幼馴染。伊織は怒りに震え、持っていた衣装を床に投げつけた。
「ちょっとなにするの!」
「もういい。これは着ない!」
「なんで!?」
「これ以上、この世に気色の悪いアルバムを増やさないためだ!」
「気色悪いって聞き捨てならない! あれは俺の生きがいなのに! 伊織の写真を撮るのが人生の楽しみなのに!」
「そんなことする暇があるなら曲を作れよ!!」
「いっぱい作ってるもん! でも天才だからマルチタスクできちゃうんだもん!」
「ああもう全部が腹立つ!!」
 激昂して衣装部屋から出ていく伊織を、春飛は慌てて追いかける。
「待ってよ、ごめんって! もう言わないから!」
「うるさい。ついてくるな。俺は今から本部に行って衣装の変更を申請してくる」
「え、嘘でしょ! ダメダメ! それだけは絶対ダメだから!」
「知るか!!」
 その後、本部に向かう伊織を春飛が死ぬ気で引き止めたこと。
 土下座をした春飛が今後アルバムの数を増やさないよう約束させられたこと。
 結果、伊織に衣装を着てもらえるようになったこと。
 その頃には交わした約束など春飛の頭から抜けていたこと。
 そこまでをすべて伊織がわかっていたこと。
――これもすべて、変わらない、そこにあるふたりの日常。

 END