AGF2023出展記念にビーズログ・アニメイトタイムズにて公開した書き下ろしSSを公式HPにて掲載！

SPHERE RISE  https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1983/
Reboost　    https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1984/
BUMPEACE     https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1985/
ULTIMATE     https://sprout-pj.jp/tcs/special/special-1986/

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「対抗心 -AGF2023 ver.-」

カラーレーション本部によって実施が決定した宣伝施策のイベント。
巴と旺士朗は、当日着用する衣装の合わせにやってきていた。
旺士朗は衣装部屋までの廊下を楽しげにスキップをしている。
「宮苑〜！　衣装合わせ楽しみだな！」
「別にどうでもいい」
　横を歩く巴は一度も旺士朗を見ずに答えた
「テンションひっく！　オリジナルの衣装をわざわざ作ってもらえたんだぞ！　しかも１０人全員違うってすごくね？　スペシャル感しかなくね？」
「……おまえってほんとおめでたいヤツだね。自分がパンダにされてることにも気づかずに」
「へ、パンダって？」
「どう考えたって、俺ら当日の客寄せパンダじゃん。イベントの資料見なかった？　ファンに向けての笑顔は必須とか書かれてたよ。手を振れとかなんとか」
「え、すっげー楽しそうじゃん。自分たちを見てくれる人たちがいるってありがたくね？」「ポジティブもここまでくると病気だな」
「おまえこそちょっと捻くれすぎなんだよ。もうちょっと物事を受け入れるってこと、学んだほうがいいぞ？」
「受け入れる必要ない。俺はこの学院で音楽を作ったり、曲を歌うために、生活してんの。会ったこともないヤツらに向けて笑顔で手なんか振れるかよ」
「楽しいと思うぞ、実際やってみたら！」
「山猿は脳みそ空っぽだから楽しいんじゃない」
「宮苑〜！」
　廊下に旺士朗の泣き声がひびいた。
　衣装部屋に入ると、ラックにかかっている色鮮やかな衣装を見て、旺士朗は思わず歓喜の声をあげる。
「宮苑の衣装、すっげーな！　透けてんじゃん！　なんかファッションショーとかでありそうな服だな！」
　巴は事前連絡で届いていた衣装写真を、端末でチェックする。そしてラックにかかっている衣装を手にし、鏡の前で自分の身体に合わせてみせた。
「……ふーん。ま、写真よりは悪くないね」
「宮苑、それすっげー似合いそう」
「俺が着こなせない服なんてこの世にないし」
「はは。いいなその自信！　かっけー！」
「見てくれ、俺はこんなんだ！」
　旺士朗が衣装を手にして鏡の前で身体に合わせる。
「ふーん。ま、いいんじゃないの。おまえのキャラに合ってて」
「マジ！？　珍しいな、おまえが褒めてくれるなんて」
「褒めてはない」
「ええ？」
　巴は一瞬で着替えを済ませると、鏡の前に立った。本人の発言通り、奇抜なデザインも見事に着こなしている。旺士朗は思わず駆け寄った。
「宮苑、すげえ！　めっちゃ似合ってんじゃん！」
「だから言っただろ。着こなせない服なんてないって」
「おう。あまりに似合いすぎてるな。おまえのために作られた服って感じ！」
「フン。そりゃどうも」
「やっぱすげえなぁ」
「おまえも、先生が来る前にさっさと着替えれば」
「おう！」
　巴は近くの椅子に座り込んで、足を組む。端末を取り出して、選抜メンバーが交代で投稿をしているSNSをひらく。自分が昨日投下した投稿に、何万というお気に入りマークがついている。気まぐれで自撮りの写真を添付して投稿してみたのだが、ファンには大好評だった。
（ま、本気出したらもっと行くけど）
　この衣装姿も撮影して載せてやってもいいと巴は考えていた。SNSのページをそのままスライドして見ていると、巴は目を疑った。先ほどの自分の投稿と比較して、2倍近く差をつけてお気に入りマークを獲得している投稿があったのだ。投稿者の名を見ると、旺士朗の名が記載されている。巴は思わず二度見した。
（は？　俺より山猿の方が多い！？　なんかの間違いじゃなくて！？）
「宮苑―！　着終わったぞ！」
「なあ、おまえさ……」
　顔をあげた巴は言葉を失った。目の前にはモデル顔負けといっても過言ではない、衣装をばっちりと着こなした旺士朗が立っていた。187cmの長身。手足がすらっと長く、顔も小さい。あまりの完成体に、巴は目を奪われてしまった。
「宮苑？　大丈夫か？」
「……っ」
　旺士朗に顔をのぞきこまれ、ようやく意識を取り戻す。そして次に巴の中にふつふつと湧き上がってくる感情。それはまぎれもなく、悔しさと対抗心だった。
「むかつく」
「え？」
「なに。なんでおまえそんな身長高いわけ？」
「ど、どした？」
「俺の方がなんでもできるはずなのに！　なんでおまえの方が着こなしてんだよ！　こんなの卑怯だろ！　絶対お気に入りの数に差がつくじゃん！！」
「おまえなんの話してるんだ？　ちょっと落ち着けって」
「うるさい！！」
　巴は旺士朗を強く突き飛ばす。ゆっくりと巴が立ち上がった。まるでリングの中にいるボクサーのように、旺士朗に鋭い視線を向けた。こいつには絶対に負けないという、執念の色が見える。
「おい山猿」
「は、はい」
「俺と勝負しろ」
「なにを……？」
「今からSNSで写真投稿して、どっちがファンの反応を獲得できるか！」
「え、ええ……？　なんでまた急に……？」
「おまえに勝たないと俺の気が済まないからに決まってんだろ！　どっちが衣装似合ってるか勝負しろ！」
「いやいや。宮苑の方が勝ってるよ。俺なんかこの通り衣装に助けられてるだけで」
「それ以上喋るな！！」
「ええ……」
「黙って俺の言うことを聞いて行動しろ。返事はイエスしか認めないから。わかった？」
「い、イエース……」
　両手をあげ、お手上げ状態といった様子で旺士朗が承諾をする。
　そこから始まった自撮り大会は、主に巴の納得する写真が撮影し終わるまで一時間はかかり、投稿し終えた頃には、旺士朗は疲労困憊となっていた。
　――しかし。その日の選抜メンバーのSNSで一番の好評を獲得した投稿は、未來によって投下された永久のレアショットだった。
「なんで瀬文先輩なの！！　ありえない！！　っていうか結局、長身のヤツが勝つのかよ！！！」
　発狂する巴を目にし、旺士朗は今後なにがあろうともこの嫉妬心を刺激しないようにしようと心に誓うのであった。

　END